法人税減税 ― 2010年08月14日
今週、とある勉強会で慶應の土居丈朗先生から法人税減税に関するお話を伺い、頭の中が整理された。以下、先生の著書「日本の税をどう見直すか」(日本経済新聞社)を参考に、自分なりの考えも交えながらポイントを整理する。
● 法人税は誰が負担しているのか?
一般的には、「消費税増税、法人税減税」の組み合わせは、「消費者冷遇、企業優遇」という批判をされがちである。しかし、これは誤っている。
よく考えてみると、企業の背後にはすべて個人がいる。もし法人税がもっと低ければ、労働者への賃金が高くなるかもしれないし、消費者が買う商品がもっと安くなるかも知れないし、債権者・株主への利払い・配当が増えるかも知れない。
つまるところ、法人税減税でメリットがあるのは、個人なのである。もちろん、企業が留保した利益をどのように配分するかについては裁量があるが、それは別の論点である。
● 日本の法人税は突出して高い
よく言われることだが、国際的に見て法人税率が40%の水準にあるのは米国と日本だけである。G7諸国は皆30%前後の水準にある。
しかし、真に比べるべき対象は英仏独ではない。企業の誘致や氏製品の販売で直接の「競合」となるのはアジア諸国である。中国・韓国・台湾は約25%、シンガポール・香港は20%以下である。
したがって、国境を越えた競争が進むなか、企業の競争力がなければ、賃金も上げることができない。まずは企業の競争力を高めることが、最優先で行われるべきである。
● 消費税は逆進的ではない?
減税する反面、増える社会保障費を賄うためには増税が不可欠であるが、そのためには消費税を上げることが望ましい。
この点、消費税は逆進的であるとの指摘があるが、誤っている。確かに、消費税は累進的ではないので、所得格差の是正には役立たない。しかし、一年ではなく消費者の生涯を通じてみれば、貯蓄されがお金もいつかは消費される。したがって、生涯を通じてみれば、消費税は所得に比例している。
というのが先生のロジックであったが、「貯蓄をしても将来に使うとは限らない」、すなわち、ずっと(金融商品などに)投資をしているだけだとしたら、生涯を通じて消費しないままでいるので、やはり所得が低い人の方が相対的に高く払うことになるのでは、という疑問は湧いた。今度、聞いてみよう。
もっとも、低所得者への配慮は、消費税の据え置きではなく、別の措置でやることが望ましい、ということは理解できる。
● 消費税を目的税化し、社会保障費に充当することが望ましい
全体としてどんぶり勘定にしてしまうと、いつまでたってもお金が足りない。そこで、必ず増えることになる社会保障費は別枠にして、そこは必要な額を消費税増税で賄う。
他方で、他の歳出については他の税金で補うことを前提に、歳出削減を通じた財政の健全化を図る。増えるものと減らすべきもの、両方があるので、二つに分けた方がシンプルで分かりやすいわけだ。
● 「消費税増税、法人税減税」の政策パッケージは、アナウンスメント効果が大きい
これは個人的な考えだが、上記のような政策を打ち出すことで、「日本が経済成長に向けて正しい方向に向かっている」というシグナルを、世界の資本市場に向けて送ることができる。
うまくいけば、企業の競争力が増し、投資が増えることに加えて、日本企業への投資が増え、株価が上がることで資産効果が生まれ、消費や投資が増えて、景気がいくらかよくなる。といった好循環が期待できる。
ファンダメンタルズをよくするには、構造的に時間がかかるだろう。しかし、まずは明るいシナリオを提示し、正しい方向へ向かっていることをアピールすることで、お金を日本に呼び込み、期待を含めて株価を上げることが、非常に大きな効果を持ちうると考える。「痛みを伴う改革」を標榜した小泉・竹中時代は、日本の株価が欧米諸国をアウトパフォームした時代だった、とどこかで読んだ。
以上、基本的なことばかりかもしれませんが、夏休みの勉強会で頭を整理した結果でした。
● 法人税は誰が負担しているのか?
一般的には、「消費税増税、法人税減税」の組み合わせは、「消費者冷遇、企業優遇」という批判をされがちである。しかし、これは誤っている。
よく考えてみると、企業の背後にはすべて個人がいる。もし法人税がもっと低ければ、労働者への賃金が高くなるかもしれないし、消費者が買う商品がもっと安くなるかも知れないし、債権者・株主への利払い・配当が増えるかも知れない。
つまるところ、法人税減税でメリットがあるのは、個人なのである。もちろん、企業が留保した利益をどのように配分するかについては裁量があるが、それは別の論点である。
● 日本の法人税は突出して高い
よく言われることだが、国際的に見て法人税率が40%の水準にあるのは米国と日本だけである。G7諸国は皆30%前後の水準にある。
しかし、真に比べるべき対象は英仏独ではない。企業の誘致や氏製品の販売で直接の「競合」となるのはアジア諸国である。中国・韓国・台湾は約25%、シンガポール・香港は20%以下である。
したがって、国境を越えた競争が進むなか、企業の競争力がなければ、賃金も上げることができない。まずは企業の競争力を高めることが、最優先で行われるべきである。
● 消費税は逆進的ではない?
減税する反面、増える社会保障費を賄うためには増税が不可欠であるが、そのためには消費税を上げることが望ましい。
この点、消費税は逆進的であるとの指摘があるが、誤っている。確かに、消費税は累進的ではないので、所得格差の是正には役立たない。しかし、一年ではなく消費者の生涯を通じてみれば、貯蓄されがお金もいつかは消費される。したがって、生涯を通じてみれば、消費税は所得に比例している。
というのが先生のロジックであったが、「貯蓄をしても将来に使うとは限らない」、すなわち、ずっと(金融商品などに)投資をしているだけだとしたら、生涯を通じて消費しないままでいるので、やはり所得が低い人の方が相対的に高く払うことになるのでは、という疑問は湧いた。今度、聞いてみよう。
もっとも、低所得者への配慮は、消費税の据え置きではなく、別の措置でやることが望ましい、ということは理解できる。
● 消費税を目的税化し、社会保障費に充当することが望ましい
全体としてどんぶり勘定にしてしまうと、いつまでたってもお金が足りない。そこで、必ず増えることになる社会保障費は別枠にして、そこは必要な額を消費税増税で賄う。
他方で、他の歳出については他の税金で補うことを前提に、歳出削減を通じた財政の健全化を図る。増えるものと減らすべきもの、両方があるので、二つに分けた方がシンプルで分かりやすいわけだ。
● 「消費税増税、法人税減税」の政策パッケージは、アナウンスメント効果が大きい
これは個人的な考えだが、上記のような政策を打ち出すことで、「日本が経済成長に向けて正しい方向に向かっている」というシグナルを、世界の資本市場に向けて送ることができる。
うまくいけば、企業の競争力が増し、投資が増えることに加えて、日本企業への投資が増え、株価が上がることで資産効果が生まれ、消費や投資が増えて、景気がいくらかよくなる。といった好循環が期待できる。
ファンダメンタルズをよくするには、構造的に時間がかかるだろう。しかし、まずは明るいシナリオを提示し、正しい方向へ向かっていることをアピールすることで、お金を日本に呼び込み、期待を含めて株価を上げることが、非常に大きな効果を持ちうると考える。「痛みを伴う改革」を標榜した小泉・竹中時代は、日本の株価が欧米諸国をアウトパフォームした時代だった、とどこかで読んだ。
以上、基本的なことばかりかもしれませんが、夏休みの勉強会で頭を整理した結果でした。
コメント
_ 苗村屋 ― 2010年08月16日 02:29
_ こんたきんて ― 2010年08月16日 23:06
法人税率の低減問題は、今後の日本の競争力を占う上でとてもクリティカルな問題ですが、アジア諸国ともこんなに差があるのか、と驚かされました。知識の整理になりました。ありがとうございます。
法人税の低減も、必ずしも国内一律である必要はないかも。
たとえば法人税の地方税分?は過疎化が進んだ地域ほど低減率を大きくするなど、地域経済への貢献なども視野に入れた工夫をすれば、消費税増税とセットになったとしても、国民の理解を得られやすいのでは、と思います。
法人税の低減も、必ずしも国内一律である必要はないかも。
たとえば法人税の地方税分?は過疎化が進んだ地域ほど低減率を大きくするなど、地域経済への貢献なども視野に入れた工夫をすれば、消費税増税とセットになったとしても、国民の理解を得られやすいのでは、と思います。
_ 通りすがりの外資生保 ― 2010年08月17日 00:29
こんばんは。
お久しぶりです。
世の中の論調(か知りませんが)では、消費税は逆進的で金持ち優遇だから所得税の最高税率を再び引き上げよ!・・・なんてのもありますが、(この国を健全に継続させるために全体の税収を増やさねばならないという前提においては)僕自身はやはり所得税よりも消費税を上げることに賛成です。
法人税については上記に賛成です。
所得税や消費税の元となる「所得」をどう捉えるかですが、(乱暴な話で恐縮ですが)ひとつの考え方として①個人が使えるお金の量②本人の努力や社会貢献の対価という2つの側面があると思います。
①について言えば、現在の所得税の超過累進課税という仕組みにおいてすでに再分配の機能は十分に果たされており、その税引き後に使えるお金の量に対しては、高所得者と低所得者を同一に課税しても逆進的とはいえずフェアではないのかと思うのです。
本論とずれますが、特に社会保険がかかっている場合には税務上のみならず再分配機能がかなり効いています。年金もその傾向ですが、特に健保は報酬比例保険料に対してまったく同一給付です。
これらの中で消費税を逆進的というのはどうかと思うのです。
一方で所得を②の側面で考えると、所得税や法人税(法人の企業努力や社会貢献の対価としての法人所得)にこれ以上の財源を求めることは果たして良いことなのか疑問です。なんだか再分配機能というよりも懲罰のようにさえ感じてきます。
①のお金をより多く消費できるというインセンティブに課税するというのはある意味でとてもフェアに思えます。
>ずっと(金融商品などに)投資をしているだけだとしたら、生涯を通じて消費しないままでいるので、やはり所得が低い人の方が相対的に高く払うことになるのでは、という疑問は湧いた。
これは相続税の裾野を広げることでタイムラグがあるにせよ捕捉できるはずで解決されるように思います。
そもそも現在の基礎控除5000万円や配偶者の特別控除1.6億円、更に小規模宅地の評価減などの課税財産の評価は、家父長制度の名残でしょうか、現在の状況にはあまりそぐわないように思います。
法定相続人当たりの1000万円は遺族のことを思えば納得性が高いですが、基礎控除を見直すことにより相続税を幅広く徴収するのもひとつかなと考えます。(地主さん、ごめんなさい)
個人的な意見は次の通りです。
もちろん、それぞれのポジションがあり万人が賛同する税制などないのでしょうが。。。
・法人税、下げ
・所得税、維持
・消費税、上げ
・相続税、基礎控除等の縮小で課税の裾野拡張
・贈与税、相続税との絡みで特例強化
いつもながら長文ですみません。
ツイッターでは書けなかったので亀コメで恐縮ですがこちらに。
岩瀬さんは各方面に影響力があるでしょうから、この国の次世代のための税制としてよろしくご検討ください(笑)
お久しぶりです。
世の中の論調(か知りませんが)では、消費税は逆進的で金持ち優遇だから所得税の最高税率を再び引き上げよ!・・・なんてのもありますが、(この国を健全に継続させるために全体の税収を増やさねばならないという前提においては)僕自身はやはり所得税よりも消費税を上げることに賛成です。
法人税については上記に賛成です。
所得税や消費税の元となる「所得」をどう捉えるかですが、(乱暴な話で恐縮ですが)ひとつの考え方として①個人が使えるお金の量②本人の努力や社会貢献の対価という2つの側面があると思います。
①について言えば、現在の所得税の超過累進課税という仕組みにおいてすでに再分配の機能は十分に果たされており、その税引き後に使えるお金の量に対しては、高所得者と低所得者を同一に課税しても逆進的とはいえずフェアではないのかと思うのです。
本論とずれますが、特に社会保険がかかっている場合には税務上のみならず再分配機能がかなり効いています。年金もその傾向ですが、特に健保は報酬比例保険料に対してまったく同一給付です。
これらの中で消費税を逆進的というのはどうかと思うのです。
一方で所得を②の側面で考えると、所得税や法人税(法人の企業努力や社会貢献の対価としての法人所得)にこれ以上の財源を求めることは果たして良いことなのか疑問です。なんだか再分配機能というよりも懲罰のようにさえ感じてきます。
①のお金をより多く消費できるというインセンティブに課税するというのはある意味でとてもフェアに思えます。
>ずっと(金融商品などに)投資をしているだけだとしたら、生涯を通じて消費しないままでいるので、やはり所得が低い人の方が相対的に高く払うことになるのでは、という疑問は湧いた。
これは相続税の裾野を広げることでタイムラグがあるにせよ捕捉できるはずで解決されるように思います。
そもそも現在の基礎控除5000万円や配偶者の特別控除1.6億円、更に小規模宅地の評価減などの課税財産の評価は、家父長制度の名残でしょうか、現在の状況にはあまりそぐわないように思います。
法定相続人当たりの1000万円は遺族のことを思えば納得性が高いですが、基礎控除を見直すことにより相続税を幅広く徴収するのもひとつかなと考えます。(地主さん、ごめんなさい)
個人的な意見は次の通りです。
もちろん、それぞれのポジションがあり万人が賛同する税制などないのでしょうが。。。
・法人税、下げ
・所得税、維持
・消費税、上げ
・相続税、基礎控除等の縮小で課税の裾野拡張
・贈与税、相続税との絡みで特例強化
いつもながら長文ですみません。
ツイッターでは書けなかったので亀コメで恐縮ですがこちらに。
岩瀬さんは各方面に影響力があるでしょうから、この国の次世代のための税制としてよろしくご検討ください(笑)
_ あずいつき ― 2010年08月18日 09:43
いつも刺激を受けています。
基本的に土居先生の論旨に賛成なのですが、「もし法人税がもっと低ければ、労働者への賃金が高くなるかもしれないし、消費者が買う商品がもっと安くなるかも知れないし」というのは、レトリックではないかと思いました。法人税が安くなった分、労働者の賃金を高くしたり、低価格戦略をとれば、結局、企業の国際競争力の向上にはならないので、そのような期待はあおらない方がよいように思います。
更にいうと、法人税の減税は魔法の杖ではなくて、やはり、今後の国際社会で現在の地位を少なくとも維持していくためには、日本人みんなが岩瀬さんのように、組織に頼らず、歯を食いしばって勉強し、はたらくしかないように思います。
基本的に土居先生の論旨に賛成なのですが、「もし法人税がもっと低ければ、労働者への賃金が高くなるかもしれないし、消費者が買う商品がもっと安くなるかも知れないし」というのは、レトリックではないかと思いました。法人税が安くなった分、労働者の賃金を高くしたり、低価格戦略をとれば、結局、企業の国際競争力の向上にはならないので、そのような期待はあおらない方がよいように思います。
更にいうと、法人税の減税は魔法の杖ではなくて、やはり、今後の国際社会で現在の地位を少なくとも維持していくためには、日本人みんなが岩瀬さんのように、組織に頼らず、歯を食いしばって勉強し、はたらくしかないように思います。
_ 大西 ― 2010年08月18日 15:59
学生ですが、恐れ多くもコメントさせていただいきます。
消費税が逆進的ではないというのは少し疑問を抱きました。
私も以前は法人税を下げて、消費税を上げればよいと考えていましたが、学生は食費をギリギリまで節約して生活しています。
そこで、更に消費税を上げるとなると、健康でいて、勉強に打ち込むのが難しくなります。
なので、贅沢品などの消費税を上げるのがよいと思います。
でも、そうなると結局は日本にある企業に負担がかかるので、法人税と同じ作用なのかもしれませんが・・・。
失礼しました。
消費税が逆進的ではないというのは少し疑問を抱きました。
私も以前は法人税を下げて、消費税を上げればよいと考えていましたが、学生は食費をギリギリまで節約して生活しています。
そこで、更に消費税を上げるとなると、健康でいて、勉強に打ち込むのが難しくなります。
なので、贅沢品などの消費税を上げるのがよいと思います。
でも、そうなると結局は日本にある企業に負担がかかるので、法人税と同じ作用なのかもしれませんが・・・。
失礼しました。
_ 閑楽堂 ― 2010年08月19日 15:56
いつも考えさせられるブログを楽しみに読んでおります。
先の方もコメントされているように、法人税が下がると労働者への分配が上がるというのはいささか結びつかないように思います。
やはり労働者への分配を多くするには、売上を上げることではないでしょうか?
そうすると消費が増えるような仕組みが必要になると思いますが、消費税が上がると個々人の可処分所得が減ります。
個々人の可処分所得が増えれば消費が促がされて企業の売上が上がり、高い法人税を払うくらいなら何かに投資しようという気が湧き、さらに経済が好循環になるではないかと思います。そうなれば税収も上がり、社会保障も充実されるのではないでしょうか。
先の方もコメントされているように、法人税が下がると労働者への分配が上がるというのはいささか結びつかないように思います。
やはり労働者への分配を多くするには、売上を上げることではないでしょうか?
そうすると消費が増えるような仕組みが必要になると思いますが、消費税が上がると個々人の可処分所得が減ります。
個々人の可処分所得が増えれば消費が促がされて企業の売上が上がり、高い法人税を払うくらいなら何かに投資しようという気が湧き、さらに経済が好循環になるではないかと思います。そうなれば税収も上がり、社会保障も充実されるのではないでしょうか。
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法人税については、中国は25%、香港は16.5%という税率で、日本の税率の高さは突出しているように感じます。最近は台湾も17%へと減税に踏み切ったようですが、これは日本ではなく韓国を意識してのようです。
同じJMMで山崎元さんが、いっそのこと日本の法人税率を0%にしてしまえ、という主張をされていましたが、非常にユニークで面白い提案だと感じました。(海外からの企業誘致が進むし、徴税コストがゼロになる)
中国・台湾間のFTA(正確にはECFA)も進んでいるようで、税制だけでなく、いろんなところで日本が取り残されていかないかと、大きな危機感を感じています。