米国企業の方が「長期経営」?2010年08月05日

朝、Twitter を読むと、出口が以下のようにつぶやいていた:

『今朝の日経・経済教室は、数字・ファクト・ロジックで考える好例ー米国企業の方が配当より投資を重視し長期経営を行っている(だから日本企業は衰退した)。』

なるほどと思って、「経済教室」を読んでみた。しかし、私は逆の印象を受けた。分析はデータを恣意的、とは言わないまでも部分的にしか見せておらず、事実とは異なる結論を導いていると感じた。

本稿は「上場企業のうち配当を出している割合」という数字をグラフ化して、日本が圧倒的に高いことを示している。そこから、日本企業の方が配当が多く、米国企業は配当よりも成長のための投資を重視している、と述べている。

しかし、そもそも「有配企業の割合」という数字が本分析において意味を持つと思えない。小さな企業が1円でも配当を出していれば、それは「配当を出している」として「1票」がカウントされてしまう。やはり、経済全体へのインパクトを見るのであれば、純利益に対する配当総額の割合を見るべきである。

この点、筆者は「日本は赤字企業でも配当しているケースが多いので、配当性向で比較するのは難しい」とあるが、これは正しくない。配当をしている赤字企業が多ければ、その分純利益は低くなり、配当性向は高まるから、「赤字でも配当している」という事実は数字に反映される。

また、米国では株主還元の手段として配当よりも自己株取得が重視されており、こちらの数字を加えなくして株主還元は語ることはできない。

例えば、米国について最近の配当性向と還元性向(配当+自己株)をみると、以下の通り:

<米国>
      配当性向  還元性向
2000年 31%     74%
2001年 69%     149%
2002年 126%    268%
2003年 35%     68%
・・・
2007年 32%     117%
2008年 68%     175%
2009年 39%     101%

<日本>
      配当性向  還元性向
2000年 36%     47%
2001年 NM(赤字)  NM
2002年 52%     102%
2003年 26%     47%
・・・
2007年 30%     49%
2008年 NM      NM
2009年 56%     63%

やはり、「日本より米国企業の方が株主還元よりも将来のための投資を重視し、長期的経営を行ってきた」という結論は、counter-intuitive で面白いのですが、データから導くことは難しいように思える。

投資(設備投資、R&D)に関するデータは見れていないのですが。