貧困者向けの保険 ― 2010年04月21日
APRIA(アジア太平洋リスク保険学会)の理事を務める明治大学の中林先生にお声がけ頂き、バングラディシュから教授をお招きしたマイクロインシュアランスに関するセミナーに参加した。
バングラディシュと言えば・・・ということで、マザーハウスの若手ホープ、迫さんを誘っていった。彼とは日曜日朝の「Economistを読む会」という勉強会でもご一緒しているのだが、とっても知的+情熱的な若者。彼のブログのプロフィールを読んだだけでも、興味がわく。
「偏差値38の高校時代を経て、米国留学。UCLA社会学部を卒業後、三菱商事に入社し半年で辞職、株式会社マザーハウスに参画。販売網の海外展開・法人事業・会計・新規出店・店舗デザイン・大工等を担当。趣味は哲学・米国文学・カフェ巡り」
http://blog.livedoor.jp/shun964/
さて、マイクロファイナンス(貧困者向けの小口金融事業)は有名だが、その中でも貸し付けはマイクロクレジット、保険がマイクロインシュアランスということになる。
昨日はまず、参加者が意外と少なかった。わざわざ現地から教授を招いているので、てっきり50名くらいが来るイベントかと思ったら・・・中林先生と同じく明治大の森宮先生、一橋の米山先生、あとは実務家の方が2名、岩瀬・迫と、中林先生のゼミ生2名。全部で10名程度の、こじんまりした会合でした。思う存分、ディスカッションできたのでよかったですが。
マイクロインシュアランスは、マイクロクレジットの借り手が融資の返済に困らないよう、生命保険などを提供するもの。一人の働き手が大人数の家族の生活を支えていることが多いので、保険の必要性は先進国と同じかそれ以上に大きい。にもかかわらず、社会保障も民間保険も、彼らのもとには提供されていない。
今回はもっぱら論点の整理という形で、現地でどれくらいこの手の保険が広がっているか、どういうプレイヤーが提供しているか、といった具体的な事例の紹介はなかった。ちょっと残念。
考えさせられたポイントは、遠隔地の村に保険を届けるためには、保険会社が独自の流通網を作るより、すでにその村にさまざまな形で接点があるNGO(医療サービスなども提供している場合が多い)やMFI(マイクロファイナンス機関)とうまく役割分担をしながら提供していくビジネスモデルを構築する必要がある、ということ。これ、マイクロクレジットと連動して保険を付けるなら、住宅ローンの団体信用生命保険を銀行が加入を促すモデルと似ているな、と思った。
また、「保険事故によるデフォルトリスクに備えるのなら、保険のリスクプレミアム分を金利に上乗せすればいいじゃないか」と質問したのだが、マイクロファイナンスはそもそも金利が非常に高い(最高35%)ということが問題なので、保険とクレジットリスクをわけることで、金利の中にembedされている保険事故的なリスクの分を分離できれば、マイクロクレジットは純粋な貸し倒れリスクだけに備えることができ、金利も下がるというメリットもあるのかなと思った。
もっとも本質的な論点は、いかにして保険事故の発生リスクをコントロールするか、ということ。この点、マイクロクレジットの場合は、5人組の仕組みや職業訓練などをうまく組み合わせることで、本来であれば返済リスクが高いと思われる集団の返済率を高めることにポイントがある。
これに対して、貧困層は十分な医療を受けられず、健康状態などもよくないため、そのままでは保険会社にとっては高リスク集団である。したがって、定期的な健診や、必要時の医療受診を全体のシステムに組み入れて、リスクを下げない限り、単なる高リスク者の集団になってしまう。
また、保険金額が小口である場合は、相対的には付加保険料(手数料部分)がどうしても高くなってしまうという難点もある。相対的に保険料の負担能力がある層から徴収した保険料で貧困層のリスクを補填することは、民間保険の公平性の概念からは望ましくない。
というわけで、コンセプトは分かるのだが、広く実践していく上では課題はまだ多そうだし、民間保険者だけでは難しく、国によるフォローが不可欠な分野であるように思えた。洪水や天災などによるリスクは、国や地域政府が海外の再保険会社と契約を結んでおく、などしたらよさそう。
マザーハウスでは、約20名の従業員のために、会社の福利厚生として医療保険的な制度を設けているようです。これも本当に保険としてやるなら、数千人、数万人の規模でリスクをプールしないと成り立たないのでしょうが。
いつもとは違う分野について考え、ディスカッションすることで、「保険とは何か」という本質が見えてくるような気がして、とても楽しい。
バングラディシュと言えば・・・ということで、マザーハウスの若手ホープ、迫さんを誘っていった。彼とは日曜日朝の「Economistを読む会」という勉強会でもご一緒しているのだが、とっても知的+情熱的な若者。彼のブログのプロフィールを読んだだけでも、興味がわく。
「偏差値38の高校時代を経て、米国留学。UCLA社会学部を卒業後、三菱商事に入社し半年で辞職、株式会社マザーハウスに参画。販売網の海外展開・法人事業・会計・新規出店・店舗デザイン・大工等を担当。趣味は哲学・米国文学・カフェ巡り」
http://blog.livedoor.jp/shun964/
さて、マイクロファイナンス(貧困者向けの小口金融事業)は有名だが、その中でも貸し付けはマイクロクレジット、保険がマイクロインシュアランスということになる。
昨日はまず、参加者が意外と少なかった。わざわざ現地から教授を招いているので、てっきり50名くらいが来るイベントかと思ったら・・・中林先生と同じく明治大の森宮先生、一橋の米山先生、あとは実務家の方が2名、岩瀬・迫と、中林先生のゼミ生2名。全部で10名程度の、こじんまりした会合でした。思う存分、ディスカッションできたのでよかったですが。
マイクロインシュアランスは、マイクロクレジットの借り手が融資の返済に困らないよう、生命保険などを提供するもの。一人の働き手が大人数の家族の生活を支えていることが多いので、保険の必要性は先進国と同じかそれ以上に大きい。にもかかわらず、社会保障も民間保険も、彼らのもとには提供されていない。
今回はもっぱら論点の整理という形で、現地でどれくらいこの手の保険が広がっているか、どういうプレイヤーが提供しているか、といった具体的な事例の紹介はなかった。ちょっと残念。
考えさせられたポイントは、遠隔地の村に保険を届けるためには、保険会社が独自の流通網を作るより、すでにその村にさまざまな形で接点があるNGO(医療サービスなども提供している場合が多い)やMFI(マイクロファイナンス機関)とうまく役割分担をしながら提供していくビジネスモデルを構築する必要がある、ということ。これ、マイクロクレジットと連動して保険を付けるなら、住宅ローンの団体信用生命保険を銀行が加入を促すモデルと似ているな、と思った。
また、「保険事故によるデフォルトリスクに備えるのなら、保険のリスクプレミアム分を金利に上乗せすればいいじゃないか」と質問したのだが、マイクロファイナンスはそもそも金利が非常に高い(最高35%)ということが問題なので、保険とクレジットリスクをわけることで、金利の中にembedされている保険事故的なリスクの分を分離できれば、マイクロクレジットは純粋な貸し倒れリスクだけに備えることができ、金利も下がるというメリットもあるのかなと思った。
もっとも本質的な論点は、いかにして保険事故の発生リスクをコントロールするか、ということ。この点、マイクロクレジットの場合は、5人組の仕組みや職業訓練などをうまく組み合わせることで、本来であれば返済リスクが高いと思われる集団の返済率を高めることにポイントがある。
これに対して、貧困層は十分な医療を受けられず、健康状態などもよくないため、そのままでは保険会社にとっては高リスク集団である。したがって、定期的な健診や、必要時の医療受診を全体のシステムに組み入れて、リスクを下げない限り、単なる高リスク者の集団になってしまう。
また、保険金額が小口である場合は、相対的には付加保険料(手数料部分)がどうしても高くなってしまうという難点もある。相対的に保険料の負担能力がある層から徴収した保険料で貧困層のリスクを補填することは、民間保険の公平性の概念からは望ましくない。
というわけで、コンセプトは分かるのだが、広く実践していく上では課題はまだ多そうだし、民間保険者だけでは難しく、国によるフォローが不可欠な分野であるように思えた。洪水や天災などによるリスクは、国や地域政府が海外の再保険会社と契約を結んでおく、などしたらよさそう。
マザーハウスでは、約20名の従業員のために、会社の福利厚生として医療保険的な制度を設けているようです。これも本当に保険としてやるなら、数千人、数万人の規模でリスクをプールしないと成り立たないのでしょうが。
いつもとは違う分野について考え、ディスカッションすることで、「保険とは何か」という本質が見えてくるような気がして、とても楽しい。
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