新人研修中の皆さんへ2011年04月04日

4月からライフネット生命にも新入社員が2名入り、1月入社(海外の大学卒業)の1名と合わせて3名となった。新卒入社者は、文字通り「純粋培養」ということで、今後、会社のDNAを背負って、中長期的に会社をけん引していく存在として成長していくことを期待したい。

さて、我々のように中途入社が9割5分を占める会社は、確立した研修プログラムがある訳でもなく、お互い試行錯誤をしながらやっていくことになる。

当社の新人に話した内容は、新人研修中の他社の皆さんにも大切だなと思ったので、ここでメッセージとして伝えたい。



「新人研修、超楽勝だぜ~」

と言っている人がいたら、それは you've got it totally wrong! と言いたい。

研修は、誰のためにあるのか?会社のためにあるのではない。皆さんのためにあるわけだ。

新入社員にとって、会社は、図書室のような書籍、過去プロジェクト等の資料、知識と経験を豊富に持った先輩など、学ぶための材料がたくさんある。

自分を鍛えるためのフィットネスジムに例えるなら、最新鋭の器材がずらっと並び、さらにインストラクターも多数いるジムの会員権を手にしたようなものだ。

そこで、ジムに行って、言われた通りの最小限のメニューをこなして、すかすかの自転車をこいで、「このジム、超余裕~」と言っても、何ら意味はないことは分かるだろう。

いかに、自分を高めるために、豊富なリソースを使いこなすか、その「使いこなす力」が問われるのである。これを「新人力」とでも名付けようか。

会社の豊かなリソースを使いこなして、いかに早く一人前に成長するか。それは、想像力を要するし、新しいことを提案する行動力も要するかもしれない。しかし、1年生というのは、多少は無謀なことが許される、失敗を恐れずに挑戦できる、貴重な時間でもある。

例えば、ライフネット生命だったら・・・
・ 「生命保険入門」「生命保険のカラクリ」を皆で読みこんで、著者を囲んで質問攻めにする
・ 過去の「生命保険経営」「保険学雑誌」などの論文を5年分くらい読み込み、自分でまとめてみる
・ これまで3年間、ライフネット生命が取ってきたマーケティング施策を整理し(「ネットで生保を売ろう!」が参考になりそうだ)、それぞれの狙い、実際の効果などを教えてもらう。ついでに、新卒向けのマーケティング施策を自分たちが考えてみて、添削してもらう
・ 目の前に座っている会計士に、会計の基礎を教えてもらう
・ たくさんいるアクチュアリーに、保険数理を教えてもらう
・ 財務の人がトレーディングしているので、運用について教えてもらう
・ 医療保険と社会保障の仕組みを勉強する
・ たくさんの新人採用をしてきた人がいるので、彼の視点から見て「伸びる新人/伸びない新人」についてレクチャーしてもらう
・ 日経の「経済教室」を毎日読むようにして、分からないことを周囲の人に質問攻めにする
・ 英字新聞の記事を何か選んで読んで、分からないことを分かりそうな人に質問攻めにする
などなど

ちなみに、当社の出口は「自分は新人のときに、新聞は最低2紙に目を通してから会社に来いと言われた」と何度となく著書で書いています。これが意味することは・・・

やれることはきりがないし、それらを順序だって整理してあげるのが人事の役割でもあるのだが、すべてが理想通りには準備できないことを考えると、どれだけ早く成長できるかは、自分からどれだけ提案し、行動できるかにかかってくるわけだ。

また、自分の経験からすると、新人時代にどれだけ自分に負荷をかけて基礎体力をつけることができるかで、将来、大きく影響してくるような気がする。部活で言えば、走りこみのようなものか。

ちなみに、大前研一氏は新人時代、いつも誰よりも早く出社し、誰よりも遅くまで残って、過去プロジェクトのファイルを読み漁ったそうだ。少し違うが、僕は新人の頃は鬼マネージャーに「岩瀬ほど頻繁に自分のところに相談に来る人はいない」と言われた。

いずれにせよ、これからは入社したばかりの皆さんにとっては素晴らしい1年となるでしょう。目の前に与えられたことに満足することなく、志を高く、自分でチャンスをつかみ取ろうというつもりで、がむしゃらに頑張ってください!

地震保険について考えたこと2011年04月06日

アゴラに書いてみましたので、以下に転載します:
http://agora-web.jp/archives/1299708.html

今回の震災に伴う地震保険の支払金額は1兆円から2兆円の間と試算されている。

地震保険は損保各社が拠出して設立された「日本地震再保険(株)」が一旦全額を引き受けた上、半分を政府に出再し、残りの半分を損保各社にシェア割りで出すことになっている。そして、損害が2兆円に至るまでは民間と政府で折半して負担し、2兆円を超えた部分については1回の震災あたり総額5兆5千億円を限度として、政府が95%、民間が5%を負担することになっている。

昭和41年の創設以来、地震保険の契約者が払い込んだ保険料を民間と政府に振り分けて積み立ててきた結果、2010年3月末時点では民間部門で約1兆円、政府に1.3兆円の準備金が積み立てられていた。このように官民合わせて2兆円を超える準備金が用意されていたことは、今回のような震災の後でも保険金の支払いがきちんとなされると国民に安心感を与えた点で、評価すべきと考える。
(余談だが、今朝の報道によれば、ミュンヘン再保険やスイス再保険といった欧州勢の再保険会社が国内損保会社に支払う保険金が3千億円程度とのこと。損保全体の負担額を考えると、海外の再保険会社に応分の負担をしてもらえることになり、民間損保も上手にリスク管理をしていたように思える。なお、2010年の世界の自然災害による再保険金支払い額は4兆円に上ったそうだ。)

しかし、昨年秋の事業仕分けでは枝野議員が中心として、政府部門の「地震再保険特別会計」を廃止すべきとの評定がなされていた(もちろん地震再保険を無くせということではなく、財務省の特別会計から民間に移管すべき、との評定であったが)。しかし、これは私に言わせれば、「特会によって財務省は焼け太りするからけしからん、とにかく無くすべきだ」という安易なロジックに基づく判断であり、同意できない。制度に大きな不都合が見つからない以上、そのままにすればよいのではないか。if it ain't broke, don't fix it, as the saying goes.

確かに、一般的に特別会計の中には省庁の既得権益維持と無駄に繋がっているものも少なくないかも知れない。しかしことにこの地震再保険についていえば、 1.3兆円の積立金は保険金支払いという明確に限定された使途のために存在するものであり、恣意的に使う余地が極めて少ない。運営にかかわる費用に関する会計も比較的明朗である。資産とともに負債を減らしたところで、財政が改善する訳でもない。また、日本地震再保険という一つの民間組織に国民の地震保険に備えるすべての準備金を置いてしまうより、卵は二つのカゴに分けて持っておいた方が安全のように思える。

なお、日本地震再保険のトップには財務省OBが就任しているため「天下りは許さない!」という意見もあるかも知れないが、他の役員には東京海上や損保ジャパンを引退した人材が就任しているので、(感情論は除けば)国民にとって実質的に問題があるものとも思えない。

民主党が事業仕分けを始める前には「特別会計は無駄の温床」と考えられたが、今となっては「特別会計に入れておいたおかげで、政治家に無駄遣いされずにへそくりとして温存されていてよかった」とすら思える。一般会計のどんぶり勘定の中でやられていたら、地震のための積立金も、子供手当に回っていたかもしれないわけだから。個人的には、増税を唱え続ける財務省の方が、財政の規律を守ろうとしている点においては、長期の国家ビジョンを持たず、選挙目当てのばらまきをやりがちな政治家よりもよほど信用ができる。

真に大切な問題から目をそむけ、安易なスケープゴートとして官僚バッシングが流行る風潮の中では言うのがはばかられるが、後世から振り返れば、(徴税権を盾に)政治家に対して財政の「最後の番人」として機能していた大蔵省を90年代に解体し権力を劣化させたことこそが、我が国の財務規律のタガを外してめちゃくちゃにした決定的要因、と評されるかも知れない。

特会の見直しよりずっと重要な問題は、地震保険の加入率がいまだ23%にとどまっていることである。「地震保険は対象範囲が狭い上、保険料が高い」と指摘する声もある。確かに、地震保険は火災保険とセットでしか加入できず、火災保険金額の30%~50%が上限となっている。また、マスコミの報道では「満額で受け取れる例は少ない。建物の時価が基準になるほか、倒壊・傾斜の条件が厳しく、阪神大震災時の支払額は1件当たり平均100万円程度。今回も200 万~300万円にとどまる見通しだ」(日経新聞2011年4月4日)と指摘するものもある。現場で損害の認定がどのようになされているのか分からないが、例えば「全損」に該当するには「損害額が建物の時価の50%以上」と明確な基準は存在するし、昨今の金融行政も保険会社に消費者保護を強く求めるようになっているので、一般人の期待から大きくかい離するような運用がなされる可能性は小さいと考える。

消費者の利便性の観点からは商品設計上、改善の余地は色々とあるかも知れないが、それは特会を廃止しても変わるわけではなく、今の枠組みの中で実現できることである。財務省の焼け太りを警戒するよりは、私はむしろ商品設計と支払いの現場を担う民間損保に対して、金融庁が消費者保護の観点から十分なガバナンスを働かせることこそが、重要だと考える。

地震保険の加入率を高めるために、政府はもっと積極的に動く必要がある。政府が大きな金額を補償するとしても、そもそも地震保険の未加入者はその恩恵を受けることはできない。損害保険会社からすると地震保険は利益が上がらない商品であるから、積極的に販売するインセンティブがない。いまは、地震保険の保険料に一定の税控除を認めるという形での政策的な誘導がなされているに過ぎないが、今後はこの控除枠を拡大することや(場合によっては生命保険料控除の枠をこちらにシフトしてもいいかも知れない)、損保各社が積極的に販売するような経済的なインセンティブを付与することも検討に値しよう。

駄々こね王国、ニッポン。2011年04月12日

40兆円しか収入がないのに90兆円も使い続けたら辻褄が合わないことは小学生でも分かることだが、収入を増やそうと増税を提案しても、「財務省の陰謀」「先に削るべき無駄があるはずだ」と反対される。

収入が増えないなら支出を減らすしかないのだが、もっとも大きな支出である年金を減らすために受給開始年齢を引き上げようとしても、高齢者が反対する。

次に大きな費用広告である医療費について、保険料を上げるか、自己負担を増やそうと思っても、「弱いものいじめ」「姥捨て山」とマスコミに反対されるのでそれもできない。

ならば医療コストを合理化しようと、レセプトの電子化や、医療データの開示を迫ってみても、(無駄な投薬や検査を指摘されかねない)医師会が猛反対するからできない。遠隔医療を実現しようと思っても、同じく。

支出を減らせないので、やっぱり増税できないかと考え「まずは公務員が身を削れ」という主張を実現しようと思っても、労働組合が反対するから人員削減も給与カットもできない。

それなら上げ潮路線で行くしかないので、企業に頑張って稼いでもらおうと、できるだけ競争しやすいように減税したり雇用コストを下げようと思っても、「大企業優遇」と労働組合に反対されるので実行できない。結果、皆がジリジリ沈んでいく。「企業の競争力強化」がまっとうな政策として取れないのは、日本くらいではないか。

ならば莫大な金融資産を活用することで投資で稼いでいこう、と思って資本市場で投資ファンドが活躍し出したら「汗をかかないでお金を稼ぐのはけしからん」という風に検察も裁判官が反対するので、投資家が日本の資本市場から去っていった。

新しい産業を創ろうとちょっと尖った生意気な起業家が出てきたものの、本当に社会を変革しうる核心部分に迫ろうとしたら、メディアに猛反発を受け、検察の助けも借りて刑事犯罪人に仕立て上げられてしまう。

農業や医療・介護といった分野で規制の見直しをすることで新産業を育成しようとしても、業界が反対するので、実行できない。しょうがないので、政府の成長戦略と称して「グリーン・イノベーション」やら「ライフ・イノベーション」やら、誰も反対し得ない空虚な言葉を掲げ、お茶を濁す。

少子化で人口が減って行くのが困るので、移民を促進しようと思ってみても、外国人の看護師試験合格率は4%と、司法試験並にハードルを上げて、導入を事実上拒む。

結局、国民全員がいやいや駄々をこね続けるので、今は文句を言えない子供たちに負担を押し付けることになる。

この国を変えるのは、容易ではない。