国民年金の空洞化2009年08月26日

最近、社会保障全般について関心があるのだが、なかでも気になってたテーマの一つが「国民年金の未納」。

半分以上の人が納めていないので、制度が破綻している、と言われている。本当にそうなのか?

そう思って、元データ見てみました
http://www.sia.go.jp/infom/press/houdou/2009/h0731.htm

なんか全然違うじゃん、と思い、コラム書いてみました。細かい数字の議論はさておき(いくつか前提条件をおいている)、大まかなロジックとしては正しいと思うので、読んでみてください。

***
年金はちゃんと払っておけ!「国民年金破綻」は誤解だ
2009/8/26
http://www.j-cast.com/kaisha/2009/08/26048192.html

最近の新聞で、「国民年金の実質納付率、3年連続50%割れ 空洞化進む」といった記事が掲載されていました。

確かに、これだけ読むと、半分以上の人が納めていないのだから、将来年金がもらえなそうな気がするし、正直に払うのがバカらしい、と思ってしまうかも知れません。

しかし、この理解は間違っています。キャッチーな見出しを好むマスコミの報道を鵜呑みにせず、生の数字をきちんと見て行くと、年金制度が空洞化しているというのはまったくの誤解であることが分かります。

>>大切なことは意外とシンプル・記事一覧
実際には「9割弱」の保険料は徴収できている

まず、この「50%割れ」という数字は、狭い意味での国民年金、つまり「第1号被保険者」と呼ばれるサラリーマン以外の自営業者や学生の方々、約2000万人を対象としています。このうち、平成20年分の保険料を完納した人数は800万人強。この数字だけを取り出すと、4割の人しか納めていないように見えるかも知れません。

しかし、そもそもこの中には、低所得者層など保険料免除の対象となっている人たちもいます。これらを除いて、実際に納められるべき保険料の総額に対して徴収できた保険料を見ると、約6割だそうです。

そして、ここが大きなポイントなのですが、「国民皆年金」の基礎をなす基礎年金の部分を支えるのは、第1号被保険者だけではなく、約3900 万人いるサラリーマン層の「第2号被保険者」が納める保険料です。これら2つを足した約5900万人いる被保険者が母数となります。

すると、未納となっているのは、第1号被保険者のうちの約4割ですから、全体に対しては13%程度となります。したがって、全員が強制加入している基礎年金部分については、9割弱の保険料は、依然として徴収できていることになります。

さらに、保険料を未納している人たちは、将来、国民年金の給付を受けることができませんので、彼らに対する給付の財源は不要となります。また、正確には分からないのですが、将来の予測を立てるに当たって、そもそもある程度の未納者が出ることは織り込み済みであると考えられます。

13%の不足というのは決して小さくはないのですが、このような国民年金の未納率をもってして、「年金制度が根幹から揺らいでいる」というのは、大きな過ちです。
老後の主な収入は「国民年金」。あとから気づいても手遅れだ

もちろん、中長期的な問題として、少子高齢化によって人口構成が大きく変わるなか、高齢者と現役世代の負担と給付のバランスをどのようにして取っていくか、という問題はあります。しかし、それは給付率がいくらか下がるか、負担が増えるという問題であって、「制度が破綻する」ということではありません。

そもそも、死ぬまでの間ずっと、一定額の給付を保証するという終身年金は、民間保険会社が運営するならば、多額の払い込みを要する商品です。それを国ができるのは、公的保険は世代間や世代内で所得の再分配を行えますし、何より不足したときには他の財源を導入できるからです。これに対して、民間保険は所得の移転はないですし、他の財源を活用することもできません。

一般論として言うならば、年金も保険も、民間の保険会社などで準備するよりも、公的な保険の方が有利であり、最大限活用すべきです。何よりも、自己責任の名で課せられる運用リスクの負担や、大きな管理コストを国に転嫁することができるからです。

現在の高齢者世帯の収入の7割が、年金だそうです。年金保険料を納めていない人たちは、年金をもらえません。将来、この不足分をどのように補うのでしょうか。年をとってから気がついたのでは、とっくに遅いはずです。

公的健康保険制度にせよ年金制度にせよ、制度が健全に持続する上では多くの課題があることは否定しませんが、だからといって、制度自体を否定したり、その利用を拒むことは、決して望ましいことではありません。自分自身の大切な将来に関する事柄、きちんと理解して意思決定をしたいですね。

コメント

_ kamome1975 ― 2009年08月26日 21:00

2008年度の年金市場運用分の損益は9兆円のマイナスです。市場が好調な時でも年金資産の運用利回りは5%を超えません。国民年金など払わず、こつこつとインデックスファンドを買った方がお得なのは自明です。その点をどう思われますか?

_ 大学生F ― 2009年08月28日 00:01

今の岩瀬さんらしい、いい記事だったと思います。
タメになりました。

_ K ― 2009年08月28日 16:25

現在の納付率と将来の年金財政は分けて議論する必要があるのではないかと考えます。
公的年金は民間の年金のような事前積立方式を採っておらず基本的には賦課方式ですので、現在納付されている保険料は直接的に将来の年金給付財源に充てられる訳ではありません。
記事の出所が書いていないためどの様な内容だったのか分かりませんが、「納付率低下による空洞化」と言うのは、年金財政の問題ではなく「2号被保険者に比べて所得が不安定と考えられる1号被保険者において納付率低下が顕著であることにより、将来無年金者の増加が社会問題化するのではないか?(つまり、社会保障が機能しなくなるのではないか?)」と言うことを問題にしているのではないでしょうか。
給付水準を含めた将来の年金財政の問題については、「賦課方式の年金制度で予想される将来の(一層の)高齢化に耐えられるのか?」と言う問題だと考えます。国庫負担率の引き上げについても「保険料で徴収するか、税で徴収するか?」と言う問題で、現役世代が高齢者を支えると言う構図に変わりはなく、何等解決にならないと考えます(年金受給者に負担させる方法も考えられますが、年金給付で年金財源を賄うと言う訳の分からない状況が生まれます)。
900兆円近い借金と今後の高齢化の進展を考え合わせると、公的年金の信頼性は決して高くない(破綻する、給付が保険料を下回ると言った事態が起きる可能性は低くない)と考えます。
公的年金制度は社会主義に対抗するための『飴』としてビスマルクが整備したと言う説があるようですが、戦費調達のための理由付けであった(従って、賦課方式が採用された)と言う説もあるようです。私見ですが、後者が事実であるなら公的年金は所詮行き詰まる運命だったのではないかと言う気がします。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。

※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。

名前:
メールアドレス:
URL:
次の質問に答えてください:
このブログの著者の名前(フルネーム)を、漢字で記入してください。

コメント:

トラックバック

このエントリのトラックバックURL: http://totodaisuke.asablo.jp/blog/2009/08/26/4539292/tb

※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。

_ 404 Blog Not Found - 2009年08月28日 18:00

著者より献本御礼。



東大×ハーバードの岩瀬式!加速勉強法
岩瀬大輔

惜しい。
内容ではない。
著者の経歴が、である。

東大在学中に司法試験をパス。
ハーバード経営大学院を上位5%の成績で卒業。
スゴ腕経営者たちが注目する「岩瀬大輔」の勉強法を初公開...