正しい問いの立て方2011年01月05日

我々のような保険会社が新商品開発のために市場調査を行うとする。

「保障は手厚い方がいいですか?」

このように質問をしたら、答えは「はい」となるに決まっている。

「保険料負担は低い方がいですか?」

このように問うてみても、同じく答えは「はい」となるに決まっている。

すなわち、給付と負担を分けて議論している限りは、「負担を伴わない給付増」を求めることは、極めて合理的な回答なのである。

我々保険会社はそのような問いかけは意味がないことが分かっているので、「ほどよい負担で、ほどよい給付を提供できる商品」というバランスを見つけようとする。あるいは、「高負担・高福祉」の商品と「低負担・低福祉」の商品の両者を販売し、選んでもらうようにする。

同様に、国レベルで行われている社会保障と税制の議論は、給付と負担が分離して議論されていることが、本質的な問題だと考える。

「現状の社会保障給付水準を維持したいですか?」と聞いたら、「維持したい」と答えるに決まっている。

「負担を増やしますか?」と聞いたら、皆「嫌だ」と答えるに決まっている。

現状の財政の課題は、高齢化に伴い増加する社会保障給付(年金、医療、介護)に見合った負担増を国民に求めていないことにある。

無駄な歳出削減の努力が必要なことは、言うまでもない。それはそれで、継続的に行うべきである。しかし、それによって(今後、高齢化によってますます拡大していく)構造的な収支の不均衡が解消できるわけではない。

本来問われるべきは、第一には「現状の社会保障給付水準を維持するために国民で負担を増やすか否か」であり、その回答がyesであるとすると、次に「どのようにその負担を負うべきか」である。

負担の方法としては、
・ 社会保険料を上げる
 1) 高齢者の自己負担を増やす
 2) 現役世代の保険料を上げる
・ 税金を上げる
 3) 広く薄く取る(≒消費税)
 4) 富裕層から取る
・ 借金する
5) 孫世代に押しつける

の大きく5つがあるわけだが、これまでは選挙を意識した結果、誰も文句を言わない「5」が選ばれてきた。しかし、投資を誘う呼び水としての公共投資を行うための財政赤字(いわば先行投資)であるならまだしも、恒常的なミスマッチを国債発行で補うことは許されるべきではない。

また、税金で社会保険給付を負担することには「安定財源の確保」というプラスはあるが、給付と負担が引き続き曖昧であるため、負担を伴わないまま給付増(含む現状維持)が求められ続けることであり、高齢化が続く限り、中長期的には際限なく増税が続くことになる。

私の意見はというと、①支出の抑制、②保険料(含む自己負担)の引き上げ、そして③増税、の組み合わせで行うべきであると考える。

すなわち、戦後まだ平均寿命が短かった時代に作られた社会保障の仕組みを見直すという意味での年金受給年齢の引き上げ、比較的資産を持っている高齢者の給付抑制及び自己負担引き上げ(65歳以上の世帯の28%が金融資産3千万円以上を保有している)、及び医療分野の規制緩和と情報公開による医療費支出の削減が重要であると考えている。加えて、国際的に見て極めて低水準である消費税の引き上げも不可欠である。

最後のポイントについては、例えば施設によっては、同様の疾病についても異なる処置を取っている結果、医療費が3倍くらい違う、ということもあるらしい。また、医薬品をいわゆるジェネリック(後発品)に置き換えることで、薬代は3割くらい削減できるという試算もある。これらはいずれも簡単な問題ではないが、構造的な年金・医療のシステムを直さない限り、この問題はいつまでも解決できないと考える。

「雇用を増やせ」に関する素朴な疑問2011年01月05日

年末に税制改正大綱を発表するにあたって、菅総理が米倉経団連会長に対して「法人税減税を行うので雇用を増やしてくれ」と依頼をし、これに対して「お約束はできませんが」と苦笑いをされる場面がテレビで何度も放映された。

似た議論で、「企業は内部留保(これはバランスシート上の概念ではなく現預金のことを指しているように思えるが)をため込んでいるんだから、もっと雇用を増やせ」といった主張がなされることもある。

これらを聞くに連れ、疑問に思う。個別企業のキャッシュポジションは、経済全体の雇用量と無関係ではないか。

・・・という書き出しで、アゴラに久しぶりに記事を書いてみました。珍しく反響がありましたので、よかったら読んでみてください。

こちら ⇒ http://agora-web.jp/archives/1164029.html